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香りのエッセイ

■第八話 ヴィスコンティ映画と香り

第八話 ヴィスコンティ映画と香り 1

ルキーノ・ヴィスコンティ(1906-1976)は、イタリアを代表する映画監督で、戦中戦後イタリアの庶民の生活を描いた作品や自らの出自である貴族階級やブルジョワのドラマを描いた作品など、14本の長編作品と数本のオムニバスや短編は今でも多くの映画ファンに愛されています。

 

 

私は、孤独な老教授と若者の交流を描いた「家族の肖像」に衝撃を受けて以降他の作品も観るようになり、リリースされるDVDなどの映像ソフトを集めてきました。何度も作品を観ていく中で、ヴィスコンティ作品には「美」や「鏡」など共通する要素がいくつかありますが、「香り」も多くの作品で扱われていることに気が付きました。

 

 

映像から直接伝わる事のない香りをなぜあえて用いたのか?

 

 

2013年8月時点で映像ソフト化されていない「異邦人」を除いた長編作品13本を改めて見直して、各シーンに注目してみたいと思います。

 

 

lv1ossesionepicture【郵便配達は二度ベルを鳴らす】1942年

-作品について-

放浪者のジーノがとある食堂に流れ着き、親子ほど年の離れた醜いオーナーの妻として家政婦のように働くジョヴァンナと恋に落ちる。偽装事故でオーナーである夫を殺害するが、保険金を巡り二人の気持ちにすれ違いが生じ、運命は転落していく。

 

ジャック・ニコルソンとジェシカ・ラング主演の1981年版と原作は同じですが、男女二人の関係を中心に描かれた内容に対し、この1942年版はジーノのどうしようもない放浪者としての性格が、スペイン人という役柄のキーパーソンと関わることで物語全般を通してより強く描かれています。

 

 

-香りのシーン-

夫の保険金をきっかけに仲違いするジーノとジョヴァンナ。ジーノは公園で一人の都会的なバレリーナと出会い部屋へ行きます。汚れた皿にまみれたダイナーで生活していたジョヴァンナの家とは異なり、バレリーナの部屋は小奇麗にまとまっていて、ふと棚で見つけたバルブアトマイザー付きの香水をプシュプシュして遊んでいる場面があります。

 

-シーン分析-

破れた服に身を包み放浪していたジーノは、食堂で汚れた皿にまみれながらも野性的な魅力を持つジョヴァンナに惹かれて恋に落ちました。

 

夫殺害の後保険金に目がくらむジョヴァンナですが、放浪者のジーノは気が進みまず、けんか別れします。スーツを着込んで公園でのんびりしていたジーノの元に、都会的でかわいらしいバレリーナが現れ、気まぐれで部屋に行ったジーノは、小奇麗にまとまった部屋に興味を持ちます。

 

冒頭からほこりや汗にまみれたシーンが続くのですが、バレリーナの部屋は可愛く女性らしい雰囲気でがらりと印象が変わります。汚れた皿や汗・油臭さの様な生活臭との対比で、香水が使われているように感じます。

 

 

lv2laterratremapicture【揺れる大地】1948年

-作品について-

貧しいシチリアの漁師たちの生活と、仲買人への反抗・屈服を描いた物語。キャストは実際のシチリア漁師や住民たちたちが演じている。

 

 

後の作品「山猫」と同じシチリアを舞台にした作品ですが、1860年頃のシチリア貴族の物語である「山猫」の時代から100年近い時が流れているにもかかわらず、「山猫」の庶民たちと比べても本作のシチリア漁師たちの生活は驚くほど簡素で、「大昔から変わらないし、変わりようのない生活」というシチリアの事情を感じる作品です。

 

 

-香りのシーン-

香りに関する場面はありません。

 

 

lv3bellissimapicture【ベリッシマ】1951年

-作品について-

娘をオーディションで勝たせるために冷静な夫を無視し、胡散臭い業界人に取り入るなどの暴走してしまう妻の物語。

 

-香りのシーン-

胡散臭い業界人との話の中で、映画監督や関係者への賄賂として「香水」という言葉が出てくるシーンがあります。

 

-シーン分析-

花束は監督の奥様へ、香水は監督の愛人への賄賂の品として挙げられますが、愛人の方が監督に対し影響力があると語られています。

 

コロンではなく香水なのでそこそこの高級品だと思われますが、胡散臭い業界人から贈り物代として50,000リラが必要と言われ花束やたばこ、香水って安すぎではないでしょうか?このだまし取られた50,000リラは結局スクーターに変わってしまいました。

 

スクーターを買えるくらいの金額なら宝石でも買えるのではないか?詐欺に遭う時って、このように冷静さを失ってしまうものなのかと思ってしまうシーンです。

 

 

lv4sensopicture【夏の嵐】1954年

-作品について-

1866年、イタリア統一運動(リソルジメント)を背景に繰り広げられる、イタリア(ヴェネツィア)の侯爵夫人であるリヴィアとオーストリアの将校フランツ・マーラー中尉の愛と憎しみの物語。

 

-香りのシーン-

マーラー中尉の宿舎、サイドテーブルに置かれたコロンらしきものが見えます。また、リヴィアの別荘の棚の上に数種類置いてあります。

 

-シーン分析-

ヴェルディのオペラ「イル・トロヴァトーレ」で始まるこの映画の時代設定はイタリア統一運動の真最中。しかし、オーストリアの将校たちは白い軍服を着たエレガントな占領軍で血や汗、泥臭さといったものからほど遠く感じられます。また、リヴィアの別荘の豪華さも戦中であることを思わせません。

 

ヴェネツィアの街中には時折軍人の死体が転がり、イタリア人達は戦いと独立を求めていきり立っていますが、敵同士であるはずのリヴィアとマーラーの間で始まった禁じられた恋物語の中では、どこか別世界の事の様に感じられます。それらを演出する小道具の一つとして、その他の化粧品と共に香水も置かれています。

 

ちなみに、この頃の香水は合成香料が開発される以前で、パリではGuerlain社やHoubigant社を始め200社程度の香水製造業者が存在したといわれる時代でした。1853年に発売されたGuerlain社のEau Imperialeは今でも販売されています。

 

 

lv5lanottibianchepicture【白夜】1957年

-作品について-

別れた恋人(下宿人)を毎晩待ち続けるナタリアに一目惚れした、主人公マリオがなんとかナタリアの心を掴もうと努力し、徐々に距離を縮めていく物語。ナタリアは別れた恋人の事を忘れられるのだろうか?

 

-香りのシーン-

下宿人の部屋でナタリアが男の使っている化粧品の瓶を嗅いで、香りから彼を感じようとします。

 

-シーン分析-

下宿人が外出している間に、ひっそりと部屋に入り男が使っている化粧品の香りを嗅ぎます。祖母に服をピンでとめられ自由のない生活をしていたナタリアの前に現れた、ミステリアスな男の事を少しでも知りたいと思わせる印象的なシーンです。

 

 

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【若者のすべて】1960年

-作品について-

貧しい南部イタリアのルカーニア出身である家族が、ミラノに住む長男ヴィンチェンツォを頼って都会に出る。都会で待つそれぞれの生活と家族の絆の物語。

 

邦題は「若者のすべて」ですが、原題は「ロッコとその兄弟」で、その主役のロッコを演じるアラン・ドロンは香水をプロデュースしており”SAMOURAI (サムライ)”は日本でロングセラーとなっています。また、Dior社の”EAU SAUVAGE (オー ソヴァージュ)”の広告には2009年から彼の若いころの肖像(EAU SAUVAGEがリリースされた1966年当時31歳)が使われています。

 

-香りのシーン-

ミラノに住む長男ヴィンチェンツォが居候している彼女(ジネッタ)の家族の家に押しかける最初のシーンで、三男ロッコがお土産に持ってきたオレンジの香りをジネッタの親戚が嗅いで「故郷を思い出す良い香り」だと言います。

 

-シーン分析-

ヴィンチェンツォ達の母とジネッタの母が久しぶりの再会を喜んでいる様子と、ジネッタの親戚がオレンジの香りで故郷を懐かしんでいることから、おそらくジネッタの家族も南部出身なのではないかと推測されます。

 

また、オレンジを袋から取り出すロッコはボクシングで成功を収めても、物語の最後までいつか故郷のルカーニアに帰りたいと思っています。

 

オレンジの香りの様に爽やかで初々しかったロッコは物語が進むにつれ、彼なりに家族の絆を守るために灰色の人生に向かって歩んでいくことになります。

 

 

 

さて、今回の香りのエッセイいかがでしたでしょうか?

 

所々こじつけた感はありますが、一度に全作品をご紹介しようと思っていましたが、思ったより長くなったため3部に分けることにしました。次回は中期の作品をご紹介します。

 

 

 

参考文献

ルキーノ・ヴィスコンティ(監督) 『郵便配達は二度ベルを鳴らす』 紀伊國屋書店, (2004)

ルキーノ・ヴィスコンティ(監督) 『揺れる大地 <海の挿話>』 紀伊國屋書店, (2003)

ルキーノ・ヴィスコンティ(監督) 『ベリッシマ』 紀伊國屋書店, (2004)

ルキーノ・ヴィスコンティ(監督) 『夏の嵐』 紀伊國屋書店, (2004)

ルキーノ・ヴィスコンティ(監督) 『白夜』 紀伊國屋書店, (2004)

ルキノ・ヴィスコンティ(監督) 『若者のすべて』 東北新社, (2006)

朝日新聞社文化事業部(編集)『ヴィスコンティ映画祭 カタログ』 朝日新聞社文化事業部, (2004)