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香りのエッセイ

■第五話 バラの香り

第五話 バラの香り

 香りの世界におけるバラ

 

花と香りという二つの言葉から連想するもので、最初に思い浮かぶものはバラ(ローズ)という方は結構いらっしゃると思います。皆さんの中でバラとはどのようなイメージでしょうか?


赤くて棘があって強いイメージ。またはピンクで可憐、甘くて優しい香りのイメージ。私は香りの世界に入ってバラに対するイメージが大きく変わりました。昔は赤くて、棘があって、強い個性、ちょっと毒々しい、どちらかというと悪のイメージでした。しかし香りの世界に入ってから、バラというよりローズは、ピンク色で、柔らかい甘さ、ジャスミンの濃厚な香りと比べると、優しくてふんわりした香りで、とても女性らしい香りというようなイメージに変わりました。

 

 

 

香料の世界で重要なバラはブルガリアやトルコで栽培されているダマスクローズ”Rosa damascena”とフランスやモロッコで栽培されているセンチフォリアローズ”Rosa centifolila”です。どちらもピンク色でくしゃくしゃした形をしています。

 

これらのバラはオールドローズと呼ばれる原種で、私たちが普段フラワーショップや近所で見かける品種改良を重ねて作られたモダンローズと異なります。

 

モダンローズは赤、ピンク、黄色など様々な色があり、尖った花弁で気品ある姿が印象的な剣弁高芯咲きと呼ばれるバラもモダンローズです。以前は剣弁タイプの人気がありましたが、最近は丸みを帯びたカップ咲きという咲き方が流行っているようです。

 

モダンローズは四季咲きで真冬を除いて一年中咲いていますが、ダマセナやセンチフォリアは5月から6月にしか咲かないので、バラの精油は一年にこの時期しか採ることができません。ちなみにセンチフォリアの別名ローズドメ(ROSE DE MAI )は5月のバラの意味です。

香りもバラ園やフラワーショップに置かれているモダンローズとダマセナ、センチフォリアは異なります。

ここ最近100種類以上のバラの香りを嗅いできましたが、モダンローズの香りは非常にヴァラエティに富んでいて、オレンジ様の甘い香りがする種や、ラ・フランスやバナナ様のフルーティな香りを持つ種、少し苦味があるグリーンな香りを持つ種、ヴァイオレットやラズベリー様の香りを持つ種、海藻様の深みのある香りを持つ種、山椒様のスパイシーな香りがする種など様々です。

 

一方でダマセナやセンチフォリアの花にはオレンジやヴァイオレットの様な甘さはありません。瑞々しいフレッシュな甘さがメインに香ってきます。

 

街でよく見かけるモダンローズと香料原料となるバラは香りが異なる為、当然天然香料として得られたローズ香料はモダンローズの香りとは異なります。しかしローズ香料がダマセナとセンチフォリアの咲いている花と同じ香りかというとそうでもありません。

 

もうひとつ香りが変わってくる大きな要因はとして抽出方法があります。水蒸気蒸留で得られるバラ精油、ローズオットーは熱による変性が起きる為、咲いている花とは大分異なる香りになります。熱のかからない溶剤抽出で得られるアブソリュートも濃縮されている為、咲いている花とは違いますが、ローズオットーよりは花に近い香りがします。

 

さらに花から直接香る香りは芳香物質に水分子がくっ付いていることにより、オイルの状態で嗅ぐより瑞々しく香るそうです。そういえばローズウォーターをスプレーで噴くとローズ香料より咲いている花のような瑞々しく心地よい香りがします。

 

なぜ香料として栽培されるバラの種類がほぼダマセナとセンチフォリアの二種になっているのかは調べてみましたがよくわかりません。香りが強いといわれていますが、モダンローズにも香りが強いものもありますし。香気成分としてバラらしい成分がより多く含まれている種なのかもしれません。



咲いているバラの香りと天然香料のローズの香りが異なるのは上記のような理由からです。では、香り製品として販売されているバラの香りは何なのでしょうか?

まず、高価なローズオットーやアブソリュートをエタノールで希釈してバラ香水を作ろうと思っても、市販されているバラの香り製品のような香りにはならないと思います。

 

これは、ローズ香料のクオリティの違いではなく、バラ香水やローズの香りとして販売されている商品のほとんどが、調香師のイマジネーションで調香された香りだからです。



バラの天然香料はいずれの抽出方法にしても非常に高価で、一般的にはあまり使用されません。しかもダマスクローズのオットー(ダマスクローズオイル)の香りは繊細で弱々しく、同じ花精油で有名なジャスミンなどと比較して強く香りません。

 

ダマセナやセンチフォリアのアブソリュートはオットーよりはローズらしい香りが強く感じられますが、やはり単体での使用では香りが立たず、どちらかというと合成香料メインの調合香料のまとめ役と使用されます。

 

この様な背景から基本的に市場に出ているローズ系の香りは合成香料で作られた調合香料なので、これを天然ローズ香料で再現しようとしても不可能です。

 

では、バラの調合香料とは何かというと、天然のバラの香りを化学的に分析して、合成香料で再構築して安価で安定的に供給する為の物です。天然香料のバラを模した物もあれば、ファンシータイプと呼ばれる調香師のイマジネーションで作られた物もあります。

 

さらにこれらの調合ベースと各種合成香料(他のフローラル要素やムスク、アンバーなど)を使い、香りのボリューム感をアップさせたり、保留性を持たせたりして、それぞれの調香師が独自に香りを作り上げていきます。調香によってモダンローズ様の香りにする事も可能です。



バラ製品の香りの違いは基本的にバラ精油の種類やクオリティの違いによってではなく、調香の方向性で色々なローズの香りに仕上がっているのです。

分析技術の発達により、バラに含まれる微量ながら香りのキーとなる成分が発展され調合香料のローズも発展してきました。

もっとバラから容易に香料が抽出でき、その上香りも咲いている状態と同じであったら、その香りに満足して、今ほど調香技術は発展しなかったかも知れません。


参考文献
渡辺 修治・大久保 直美共著 『香りの選書⑫ 花の香りの秘密-遺伝子情報から機能性まで-』 フレグランスジャーナル社(2009)