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香りのエッセイ

■第九話 ヴィスコンティ映画と香り 2

第九話 ヴィスコンティ映画と香り 2

前回のエッセイに続き今回はヴィスコンティ映画の大作「山猫」から「地獄に堕ちた勇者ども」について書きます。

 

 

lv7ilgattopardopicture【山猫】1963年

-作品について-

「夏の嵐」と同様、イタリア統一運動の時代をシチリア貴族の視点で語った物語。主人公のサリーナ公爵はリソルジメント(イタリア統一運動)の中、自分を旧世代の人間であると自覚しており、跡継ぎである甥っ子の結婚相手を貴族の血から選ぶのではなく、事業家(新興ブルジョワ)の娘との仲を後押しする。二人のお披露目でもある舞踏会という最後の表舞台を終え、自らの老いと死を思いながら明け方の街を一人帰ってゆく。

 

冒頭のシーンから、まるで自分が1860年にタイムスリップしたような圧倒的な空気感を感じますが、100年の間に近代化された時をさかのぼるために、舗装道路をはがして石を敷き詰めたり、電柱や電線、テレビのアンテナなどを取り払ったり、季節外れの植物を植えたりして当時の空気を再現したそうです。

 

 

-香りのシーン-

サリーナ公爵が風呂上りにつけているコロンを、公爵が部屋を出た後、神父がこっそりとつけます。

 

 

-シーン分析-

このシーンの少し前に、一般庶民と神父が話す中で「貴族たちは特別な世界に住んでいる別の人間で、庶民が気にしている革命のことについてはあまり興味が無く、別荘での生活(庶民からしたら小さなこと)などを気にしていて、よくわからない。」というくだりがあります。神父の行動は一般庶民から見てよくわからない貴族の嗜みを確かめているように見えます。

 

ちなみに、香水評論家の平田幸子先生によると、この映画で使用されているコロンは、ROGER & GALLET (ロジェ・ガレ)社のJean Marie Farina (ジャン=マリー・ファリナ)だそうです。

 

アラン・ドロン演じるタンクレディが初登場する髭剃りの場面にもJean Marie Farinaらしきボトルが見られます。

 

 

lv8vsdopicture【熊座の淡き星影】1965年

-作品について-

アメリカ人の夫アンドリューとイタリア人の妻サンドラは、妻の故郷であるトスカーナの古代エトルリア都市ヴォルテッラへ、ナチスに殺された科学者であった父の像の除幕式に出席するため里帰りする。紀元前800年につくられたヴォルテッラの街と妻の友人家族にミステリアスな雰囲気を感じた夫は妻の過去を知ろうと調べていく。そこには妻と実弟のただならぬ関係があった。

 

日本初公開は本国から遅れる事17年後の1982年。その後2003年までの21年間は劇場での公開がほぼ皆無だった上、ソフト化もされていなかったため幻の作品と呼ばれていました。2003年リバイバル上映の配給会社ケイブルホーグさんが作ったパンフレットは、ミステリアスな本作の理解を助け、より興味を深める素晴らしい解説書です。

 

 

-香りのシーン-

特に花や香水の出てくるシーンはないのですが、それらの香りより、クラウディア・カルディナーレ演じるサンドラの官能的な存在感を感じて欲しいといわんばかりの作品です。

 

また、劇中冒頭から執拗に流れるセザール・フランクのピアノ曲「前奏曲、コラールとフーガ」は、時に香りが過去の記憶をよみがえらせるように、サンドラの心の奥底にしまっていた記憶を引きずり出します。

 

その強烈なインパクトを持つメロディーは本作を観た人の記憶のどこかに残り、いつかどこかでこの曲を聴いたとき、サンドラやモノクロで撮られたヴォルテッラの土地がふと思い出されるような気がします。

 

 

【異邦人】1967年

-作品について-

アルベール・カミュ原作の小説「異邦人」の映画化で、ヴィスコンティの長編映画14本の中で唯一DVD, Blu-ray化されていない作品です。(2013年10月現在)

 

 

-香りのシーン-

2004年に開催された朝日新聞社主催のヴィスコンティ映画祭で一度観ましたが、残念ながら香りに関するシーンがあったかどうか記憶にありません。

 

 

lv9thedamnedpicture【地獄に堕ちた勇者ども】1969年

-作品について-

1933年~1934年、ナチスが徐々にドイツ国内で勢力を付けていく過程を鉄鋼一族の内部闘争をからめて映し出した舞台のような作品。

 

 

-香りのシーン-

本作ではいくつかの場面でGuerlain (ゲラン)社の香水が登場します。

 

*まず、マルティンの愛人オルガの部屋の鏡台にGuerlain社のハート型ボトルが置いてあります。

 

*マルティンの母ゾフィが湯上りにコロンをつけています(どこの製品か不明)。そして鏡台にはオルガと同じGuerlain社のハート型ボトルが置いてあります。ハート型ボトルはL’heure bleue(ルール・ブルー)やMitsouko(ミツコ)に使われているため、どの香水か断定はできません。

 

*ラストシーン近く、ゾフィの鏡台が大きく映り、そこにはGuerlain社のJicky (ジッキー)らしき香水が映されます。

Blu-rayでリリースされればGuerlain社のハート型ボトルの香水名やJickyと思われる香水名がきちんと確認できるかもしれません。

 

 

-シーン分析-

マルティンの愛人オルガ、マルティンの母で未亡人のゾフィそれぞれの鏡台には複数の香水が置かれていますが、二人の鏡台の上には同じGuerlain社のハート型ボトルが置かれており、オルガの部屋に置いてあった高価な品はマルティンからの贈り物だとわかるシーンがあるため、母親のゾフィにコンプレックスを抱いているマルティンが、オルガに母と同じ香水をプレゼントしたのではないか?という推測が出来ます。ゾフィは愛人であるフリードリッヒに熱を上げていたため、息子であるマルティンには余り愛情を注いでいませんでした。やがてマルティンの屈折した母への愛情を含むそれぞれの思惑が代々続く鉄鋼一族を滅ぼすことになります。

 

また、この作品からは香水のような心地よい芳香は全く感じられず、ラストのゾフィ婚礼の白い化粧からは純潔より病や死の香りが漂ってくるように感じられます。

 

 

 

今回は中期の4作品をご紹介しました。特に「地獄に堕ちた勇者ども」にはGuerlain社の香水がさりげなく置いてあるので、もし今後ご覧になる方は鏡台に注意してみてください。

 

次回は遺作「イノセント」までをご紹介します。

 

 

参考文献

ルキーノ・ヴィスコンティ(監督)『山猫』 IMAGICA TV, (2011)

ルキーノ・ヴィスコンティ(監督) 『熊座の淡き星影』 紀伊國屋書店, (2003)

ルキノ・ビスコンティ(監督) 『地獄に堕ちた勇者ども』 ワーナー・ホーム・ビデオ, (2004)

朝日新聞社文化事業部(編集)『ヴィスコンティ映画祭 カタログ』 朝日新聞社文化事業部, (2004)

ケイブルホーグ(編集) 『熊座の淡き星影』 ケイブルホーグ, (2003)

篠山紀信著 『ヴィスコンティの遺香 華麗なる全生涯を完全追跡』 小学館, (1982)

シャザル・マルティーヌ (監修) 『きらめく装いの美 香水瓶の世界』 ロータスプラン, (2010)

スターリング・モニカ著 上村達雄訳 『ルキーノ・ヴィスコンティ-ある貴族の生涯』 平凡社, (1982)

フィルムアート社(編集) 『ヴィスコンティ集成』 フィルムアート社, (1981)