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香りのエッセイ

■第三話 天然香料について

第三話 天然香料について

 天然香料ってどんなもの?

 

香水を作る上で最も重要な素材が香料です。その中でも自然界の動植物から採られた香料を天然香料と呼びます。大昔の香水は天然香料のみで作られていましたが、化学が発達し合成香料が発明されると、徐々に柑橘系以外の天然香料の割合は減っていき、一部のメーカーを除くほとんどが合成香料メインの香水となっています。

 

一方最近ではアロマのエッセンシャルオイル(精油)として、市場に出回っており誰でも気軽に購入する事が出来ます。

 

抽出方法は一般的に水蒸気蒸留法、圧搾法、溶剤抽出法があります。圧搾法は主に熱に弱い柑橘(シトラス)系の精油を採る方法で、機械で果皮と果実に分けて果皮に傷をつけ出てきた精油を採取します。

 

水蒸気蒸留法は釜に香料原料となる植物を入れ蒸気圧で精油を抽出する方法です。熱がかかる為柑橘系の様に沸点の低い香気成分を多く含むものや、繊細な香りを持つ花にはあまり向きません。精油の他に得られる蒸留水にも微量の芳香物質が溶け込んでおり、フローラルウォーターやハイドロゾルと呼ばれ利用されています。

 

繊細な花には溶剤抽出法という、香りを溶剤に移して抽出する方法があります。この方法で抽出された香料はアブソリュートと呼ばれ、水蒸気蒸留で得られた精油より植物そのものに比較的近い香りが特徴です。

 

その他新しい抽出法として超臨界二酸化炭素抽出法があります。超臨界流体という気体と液体の性質を持つ状態にした二酸化炭素を用い香気成分を抽出します。低温で扱う事が出来る為、トップノートを損なわず植物に近い香りを得る事が出来ますが、得られる香料は高価なものとなります。

 

また現在は非常に手間がかかる為減少していますが、吸着・吸収法という獣脂に花の香りを移して抽出する方法があります。ジャスミン、チュベローズなど花を摘み取った後でも数日間香りを作り続ける花に対しては冷浸法(アンフルラージュ)。一方でローズ、ヴァイオレット、オレンジフラワーなど摘み取りと同時に香りを作らなくなる花に対しては温浸法(マセレーション)が用いられています。

 

これらの香料原料となる植物は世界各地で栽培または自生しています。フランスのラベンダー、ブルガリアのローズ、アメリカのミント類、インドのサンダルウッド、イタリアのレモンなどが比較的有名です。日本でもユズやヒノキなどの精油が作られています。

 

昔は香料といえばグラースが有名でしたが花精油は徐々に人件費の安いアフリカに移って行きました。その他、ミルラ(没薬)、オリバナム(乳香)といった聖書に出てくる香料や化粧品・食品ともに重要なバニラ、アロマでよく使われるイランイランなどもアフリカ産です。東南アジアもスパイス(クローブ、ブラックペッパーなど)やウッディ(パチョリ、ベチバーなど)系の香料の重要な産地です。

これら一つ一つの天然香料には数えきれないほどの芳香成分が含まれておりいまだに全てを解明し合成香料で完璧に再現するには至りません。天然香料が一つの完成された調合香料といえるほどです。合成香料10品で作り上げた香料は10種の芳香成分の香りしか有りませんが、合成香料9品と天然香料1品にするだけでも数十、ごく微量成分を含めると数百の芳香成分からなる複雑な香りになるのです。これは香水に奥行きや複雑さを与えます。

 

このように魅力的な天然香料ですが現在は非常に厳しい状況にあります。天候不順による不作、自然災害、紛争、乱獲による動植物の減少、人件費の高騰、他の作物への切り替え、投機マネーの流入など、生産地の影響がダイレクトに影響し安定供給に対する問題が山積しています。

 

特にサンダルウッドやローズウッドなどの木から採られる精油が乱獲や森林伐採の影響を大きく受けています。木は草花と違い成長に時間がかかるので植林のペースが間に合わないのです。

 

また安全性に対する規制などで使用に制限がかかる香料もあります。シプレーノートを作るのに重要なオークモスという香料は厳しい配合制限で徐々に配合量が減っています。

 

そして低価格で優れた芳香を持つ合成香料による調合ベースに置きかえられていく香料もあります。ヴァイオレットフラワーやヒアシンスなどです。

 

しかし、種類が少なくなるばかりではありません。新しく抽出を試みられた植物などにより、樫の木やウコンなど魅力的な天然香料が作られています。さらに分留という技術で天然精油の持つ特定の成分を抽出した香料もあります。天然香料の濃い色を脱色し見た目にも使用しやすくしたグレードもあります。

現在、動物性香料のムスク、シベット、カストリウム、アンバーグリスなどはほとんど生産されておらず合成の調合香料に代替されています。シベットはまだ使われている商品もあるかもしれませんが。そのシベットチンキはかなり強烈な動物臭で香料素材として評価する気になれない程でした。天然ムスクチンキは合成ムスクの甘くマイルドな香りとは異なり、やや酸っぱくパウダリーな香りでシベットよりは嗅ぎやすい香りです。どちらも希釈すると良い香りになるそうですが…。アンバーグリスは合成のアンブロキサンのように透明感のある香りではありませんが、濃厚なバルサミックさを持ちオリエンタル系に合いそうな香りでした。

 

いずれの動物性香料もそれに含まれる特徴的な香気成分が合成されてきています。不安定で不純物も多く倫理的にも問題が取り沙汰される動物性香料をあえて使用する必要性はほとんどないのかもしれません。

さて、長々と述べてまいりましたが、天然香料はまぎれもなく自然から得られた貴重な香料です。ローズオットー(水蒸気蒸留により得られるバラ精油)1kgを得るにはバラの花弁4tなどと良く言われていますが、その他の植物も世界各国の人々が栽培、収穫をしたものが抽出され、香水として調香され、私たちの手元にやってきます。

 

最近はアロマの精油がいたるところで販売され、天然香料の貴重さの感覚がかなり薄れてきた気がします。もちろん最終製品である香水もかなりディスカウントして販売されています。

 

植物が作り出した限りある資源、精油一滴、香水ひと吹きする時に、その貴重さを思い出しながら使っていく心持を大切にしていきたいものです。